る。
 現在では市内の商売が落ち付いて来た結果、このような生産物がよほど減ったらしいが、それでもかなり多い事はその筋の差押え高でわかる。

     怪しい大道商人

 以前東京では、縁日の出はずれ、浅草、神田、京橋|辺《あたり》の露店の切れ目、活動館の付近、人通りの多い近所の蔭暗い処に、蝋燭《ろうそく》を一本立てて怪し気な絵を売買したものである。あとで見ると、忠臣蔵、弥次喜多、女と男の柔道の絵なぞで、買って少し行ってのぞいて見る間のねうちであった。中には本物もあったという。
 この商売が今は動的となった。
 日が暮れて九時頃になると、見すぼらしい風をして往来に出る。番頭風もある。労働者風もある。いずれにしても見すぼらしくなければいけないそうである。程よい人間を見るといきなり擦寄《すりよ》る。絵をチラリと見せて、一枚一円とか二円とか云う。相手を恐れるような、脅迫するような、そうして今にも逃げ出しそうな態度を見せるのが一番有効だそうである。これは死体写真の売り方と同一で、慣れると相手に品物を渡す。自由に見せながら、見え隠れについて行く。程よいところで金をせびる。もっと熟練すると、白昼、繁
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