へ行って失敗したと見えて、帰って来るとすぐ記者に電話をかけた。
「君。駄目だったよ、あそこは。誰か紹介者がなくちゃ……君は例外らしいぜ……」
「そうかなあ……じゃ、名探偵だな、僕は……」
「馬鹿な……いい椋鳥《むくどり》に見えたんだろう」
文明病としての神経痛
女医、美容術師、マッサージ師、派出婦、助産婦、保姆、看護婦なぞは、大抵、何々会というものに付属しているが、この何々会に頗《すこぶ》る怪しいのが多い。
九州地方の看護婦会の会長さんはよく云う。
「看護婦は奥さんの御病気の時に行くのを嫌がります。つい旦那様のお世話をさせられたりして、誤解を受けたりする事がありますので……どうも困ります」
東京はこれと正反対で、そんなところを撰んでつけ狙う。一方、お客の需要もそんなのが珍らしくない。独身男から、奥さんが病気だと、電話がかかって来るのもないと限らぬ。勿論、会長も看護婦もその方の収入の方がずっと大きい。
その他、子供の世話と名付けて保姆を、その他の仕事に家政婦や派出婦をといった風に、前の看護婦と同様の意味で営業しているのが、東京市中にかなりあるらしい。但、見わけはなかなか付かない。
今度、東京でいろんな新智識を得たが、その中でも面白いのは、マッサージ師の上得意で、神経痛という病気である。これは文明病の一種であるが、ちょっと医師にも素人にも見わけが付かないところに、一層文明病としての価値があるのだそうな。というのは、奥様が神経痛にかかって別荘に御祈祷師を呼び寄せると、旦那も又神経痛で本宅に女マッサージを出入りさせるというわけである。最近の神経痛は痛くとも何ともなくて、かかり易くてなおり易く、おまけに見分けが付かないという。便利な病気もあればあるものである。
但、これ等は、東京人の堕落時代に乗じて今更|流行《はや》り出した病気とは云えないかも知れぬが――。
恐ろしい看護婦
私立病院の看護婦に醜業婦同様のものが居る事は古めかしい話である。嘘か本当か知らぬが、看護婦に美人の多い病院は繁昌するという。又、病院の種類に依って、美人を必要としない病院もあるという。さもありそうな事である。
尚、これも余談ではあるが、こんな話を聞いた。
東京の女が如何に堕落しても、又はどんなに凄腕になっても、看護婦のそれ程深刻にはなり得ないであろう。言葉を換
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