で、セット(待合)にでもローケーション(旅行)にでも来る。時と場合では宴会の席上にも来るが、芸妓のように「アラチョイト」式の活躍はしない。如何にも芸術家然と気取っていて、先ず飾り物といった風である。その癖《くせ》金のかかる事帝劇女優以上だと云う人もあるし、以下だと云う人もある。但、これは宴席の飾り物としての事で、第二次の御馳走としてのねだんは帝劇の以下だと聴いた。いずれにしても、将来、文化的の意義を以て益《ますます》流行する事請合いである。
 その中《うち》政府から勲章が下がるようになるかも知れぬ。

     或る大カフェーの一例

 女給のブローカーは店の番頭や帳場のお神、老女給なぞが受け持っているときいた。しかし実際に当って見ると、どれがどうなるのか一寸見当が付きにくい。
 見当の付いた一例ではこんなのがある。それは浅草の或るカフェーである。
 広い天井一パイの花や紅葉の間に昼夜輝く電燈の下を、十七八から二十歳前後の揃いも揃ったのが二十人程、友禅模様に白エプロンの結び目高やかに右往左往している。ここの女給は、ほかの処みたようにキャッキャとしゃべったり、笑ったりしない。皆伏し目勝ちにして、時たまニコリする位のことで、それが又特徴になっている。聞けばここの女給は或る限られた地方から、或る手段で連れて来て仕込んだもので、うっかり口を利かせると売れ口に関係するのだそうな。つまり顔と肉体美だけを見せ付ける方針らしい。
 それかあらぬか、ここのお客には凄いのが多い。浅草辺のゴロ付き、隠れたる凄腕記者、何々団の壮士、札付きの主義者なぞが、あちらの机、こちらの椅子に陣取って、チビリチビリやりながら、用あり気に出入りのお客に眼を光らしている。
 これに対して、店の入口の処にコック帽の男が一人、そのうしろの机に背広服が一人、帳場に禿頭一人、女給頭一人と居て、なかなか監視が厳重である。こんな処ではなかなか女給と直接交渉(一名万引き)は出来ない。
 ところで尚このほかに、今一人、背広に縞ズボンのリュウとした男がブラブラしていて、時々テーブルの傍《かたわら》へ来て、お客の顔を見ながらヒョコリとお辞儀をする。ニコリと笑うこともあれば、
「入らっしゃいませ」
 とも云う。
 この男を呼び付けて女給の番号を云うと、喰ってもいない洋食の勘定書を持って来る。又はお酒の代として、別勘定にして来る
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