◇
 探偵小説の神秘は究極するところ、神秘であってはいけないと思う。[#ここから横組み]2÷2=1[#ここで横組み終わり]であり[#ここから横組み]2×2=4[#ここで横組み終わり]でなければ結局感心出来ない事になるようである。
 [#ここから横組み]1=X/X[#「X/X」は分数]=1×1=0/0[#「0/0」は分数]=8÷8[#ここで横組み終わり]なんていうのを使うのは大抵素人に限るようである。
 [#ここから横組み]√(−1)[#ここで横組み終わり]を使う時、本格探偵小説の価値は0となるか、又は性質を変じてノンセンス、ユーマー、怪奇小説の類に堕するようである。
       ◇
 作者が一度読んだものを有意識にも、無意識にも真似たものは、ドンナニ口ざわりがよくても味が落ちるから直ぐにわかる。
 必ず自分の井戸から汲んだ水でなければイケナイようである。他所の井戸水で作った酒は決して酔わない。酔えば悪酔いをする。
       ◇
 今まではトリック即興味と思っていた。スリル即話術とも考えていたが、これは違うようである。笑われても仕方がない。
 全篇のストーリーを一挙に真実化するのがホントのトリックではないか。
 話術でスリルを作るのはインチキ話術ではないか。
       ◇
 探偵小説は日常到る処に在る。諸君がそこで呼吸していることが既に驚くべきミステリーであり、トリックであり、スリルでなければならぬ。
 ただ、読者がそこまで高級化していないだけの話である。
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 すこしアタマが変テコになって来た。これ以上書くとイヨイヨ笑われそうだからやめる。



底本:「夢野久作全集11」ちくま文庫、筑摩書房
   1992(平成4)年12月3日第1刷発行
入力:柴田卓治
校正:小林徹
2001年7月25日公開
2006年3月2日修正
青空文庫作成ファイル:
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