棚に押込んでしまうのであるが、何が、お前をそうさせるのかと、自分の頭に反問しても、返事は一つも浮かみ上がらない。その癖、おそろしく焦燥《あせ》ってジリジリしている事はたしかだ。これぞと思う本があればポケットを空《から》にしても構わないぐらい棄身《すてみ》の決心をしている事だけはたしかである。……だが……何を求めているんだと云われても返事が出来ないから困る。
 ……自烈度《じれった》いと云って、これ位自烈度い話はなかろう。……これがわかれば一躍、世界一の流行作家になれるかも知れないんだが……。

 人文の発達に伴う、読物の種類の分派を探求し、綜合したところから帰納して、探偵小説が如何なる社会心理の反映を象徴しているものであるかをハッキリときめてくれる人は居ないか知らん。現代人が探偵小説の将来、如何なるものを要求しているかを、鮮やかに指示してくれる大批評家は居ないか知らん。

 本屋の店頭に立って色々と本を漁っている人の頭を見破って帰って、直ぐにその慾求通りのものを書くという訳には行かないものか知らん。
 否々。一流の流行作家は、皆、それが出来るのに違いない。そうして、わざと黙っているのに
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