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ああああああああア
歌が聞きたけあア――野原へお出《い》でエ――
青空の歌ア――恋の歌ア――
あああああああア
生命《いのち》棄てたけア――満洲へお出でエ――
遠い野の涯エ――河の涯エ――
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アハハハハ。どうだい。いい声だろう。出て来なけあ、まだまだイクラでも唄ってやるぞ。ハハハハハ」
ソッと聞いていた女たちが、一人一人恐る恐る眼をマン丸にして這入って来た。吾輩の歌に感心したらしく、気抜けしたような恰好で、吾輩の周囲《まわり》を取巻きながら、椅子に腰を卸《おろ》した。
そうして一心に吾輩の姿を見上げている半裸の若い女たちの姿を見まわすと吾輩は、森の妖精《ニンフ》に囲まれた半獣神《パン》みたような気持になった。
「いい声ねえ。おみっちゃん」
「上海《しゃんはい》にだって居ないわ」
「惜しいわねえ。コンナに町をブラブラさして……ホホ」
……ソレ見ろ……と吾輩はすこし得意になった。イキナリ椅子から立上って山高帽を冠り直したもんだ。
「エエ。こちらはJORK東京放送局であります。只今……エート……只今午後二時二十七分から、支那料理が出来
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