攫《さら》って行ったものらしい。あの髯だらけのルンペンみたいな紳士が、きっと反対党の廻し者か何かだったに違いない。口惜しい口惜しいと云って寝床の中で身もだえをしておりますうちに、非道い発作が起りまして、『妾はコンナ非道い侮辱を受けた事はない。仇《かたき》を取って来るから』と云って駈け出しそうになりますので皆《みんな》して押え付けようとしましたが、どうしても静まりません。却《かえ》って非道くなってしまって、弓のようにそり反《かえ》りますので、そのまま神田の脳病院に入れて、寝台へ革のバンドで縛付けておきますと、その革のバンドを抜けようとして藻掻《もが》いた揚句《あげく》、どこかへ内出血を起して、その自家中毒とかで突然に……亡くなりまして……」
「成る程。どうもエライ騒ぎじゃったな。不幸ばかり重なって……」
「……ですから一層のこと歌夫さんがお懐かしくて仕様が御座いませんの。コンナ時にこそ居て下さると、どんなにか力になるでしょうと思いながら、それも出来ませんし」
「イヤ。わかったわかった。よくわかった。とにかく吾輩が引受けた。直ぐに今から活動を開始するじゃ。それではこれで帰ろう……いや構わん
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