うなず》いてみせると、お合羽さんは振袖を飜えして門の内へ走り込んだ。お尻の上の帯をゆすぶりゆすぶり玄関の扉《ドア》を開いて、新派悲劇みたいな姿態《ポーズ》を作って案内したから吾輩も堂々と玄関のマットの上に片跛《かたびっこ》の護謨《ゴム》靴を脱いで、古山高帽を帽子掛にかけた。お合羽さんが自分の草履と、吾輩の靴を大急ぎで下駄箱に仕舞うのを尻目に見ながら堂々と応接間に這入った。
「失礼じゃがマントは脱がんぞ。下は裸一貫じゃから」
「ええ。どうぞ……」

     廃物豪華版

 応接間の構造は流石《さすが》に当市でも一流どころだけあって実に見事なものであった。天井裏から下った銀と硝子《ガラス》の森林みたような花電燈。それから黒|虎斑《ぶち》の這入った石造の大|煖炉《だんろ》。理髪屋式の大鏡。それに向い合った英国風の風景画。錦手大丼《にしきでおおどんぶり》と能面を並べた壁飾《かべかざり》。その下のグランド・ピアノ。刺繍の盛上った机掛。黄金の煙草容器。銀ずくめの湯の音をジャンジャン立てているサモワルに到るまで、よくもコンナに余計な品物ばかり拾い集めたものである。乞食の物置小屋じゃあるまいし……と
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