糞《やけくそ》になってしまった。
「馬鹿。銭があったら嬶《かかあ》を持つワイ。感化院の房公《ふさこう》を知らんケエ」
とタンカを切ってやったら牛太の奴吾輩の襟首を掴《つか》んでギューギューと小突きまわした。序《ついで》に拳固《げんこ》を固めて吾輩の横面《よこつら》を一つ鼻血の出る程|啖《く》らわしたから、トタンに堪忍袋の緒が切れてしまった。さもなくとも燃え上るようなホルモンの遣《や》り場に困っている吾輩だ。襟首を掴んでいる牛太郎の手の甲をモリモリと噛み千切《ちぎ》りざま、持って生まれた怪力でもって二十貫ぐらいある豚野郎を入口の塩盛《しおもり》の上にタタキ付けた。それから失恋のムシャクシャ晴しに、駈付けて来た二三人の人相の悪い奴を向うに廻わして、下駄を振上げているところへ、通りかかった角力取《すもうとり》の木乃伊《ミイラ》みたいな大きな親爺《おやじ》が仲に這入《はい》って止めた。止めたといってもその親爺が無言のまま、片手に吾輩の襟首を掴んで、喧嘩の中から牛蒡《ごぼう》抜きに宙に吊るしたまま下駄を穿《は》かしてくれたので万事解決さ。相手のゴロツキ連中もこの親爺の顔を知っていたと見えて、猫
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