、精神的にも物質的にも生れながらのルンペンなんだろう。孫悟空と同じに華果山《カカサン》の金の卵から生れた事だけは確実……だろうと思うんだが……アハハ洒落《しゃれ》じゃないよ。
 それから十四の年《とし》にO市の感化院を脱出《ぬけだ》して無一文で女郎買いに行った。ドッチも喜ぶ話だから多分、無料《ただ》だろうと思って行ったのが一生のアヤマリ。女郎屋の敷居を跨《また》がないうちに吾輩の帯際《おびぎわ》を捉まえて、グイグイと引っぱり戻した奴が居る。鯉のアタリよりもチット大きいなと思って振返ってみると、タッタ今表口に立って……イラッシャイイラッシャイをやっていた豚みたいな男だ。感化院を出がけに兄貴分から注意されて来た牛太郎《ぎゅうたろう》という女郎屋の改札|掛《がかり》はコイツらしい。聞いた通りに派手なダンダラの角帯《かくおび》を締めていやがる。
「オイ、兄さん。銭《ぜに》を持っているかね」
 と云ううちにその改札屋が吾輩の襟《えり》番号をジイッと見やがった時にはギョッとしたね。アンマリ気が急《せ》いていたもんだからウッカリして引剥ぐのを忘れていたもんだが、見破られたと思ったから吾輩はイキナリ焼
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