》みたいに真赤で、頭の毛がテリヤみたいに銀色に光っている奴をマン中から房々《ふさふさ》と二つに別けている。太眉《ふとまゆ》が真黒で髯《ひげ》は無い。そいつが鼻眼鏡をかけて白い服を着て、紫陽花の横から半身を乗出したところは何となく妖怪じみている。処女見たいな眼を細くして金歯をキラキラ光らしているから一層、気味が悪い。一見して容易ならぬ学者だという事がわかる。
「……君……一つ頼みたい事があるんだが」
学者だけに常識が無いらしい。初対面の人間に物を頼むのに、窓越しに頼むという法は無い。吾輩も腕を組んだまま、振返って返事してやった。
「何の御用ですか」
天狗猿がニッコリと笑った。
「君は実験用の犬屋だろう」
吾輩は面喰らった。そんな商売が在る事を、その時がその時まで知らなかったもんだから思わず自分の姿を見まわした。成る程、煙突の掃除棒みたいな頭に底の無いカンカン帽を冠《かぶ》っている。右の袖の無い女の単物《ひとえもの》の上から、左の袖の無い男浴衣を重ねて、縄の帯を締めている。河岸の石垣の上から穿《は》いて来た赤い鼻緒の日和下駄《ひよりげた》を穿いているが、これはどうやら身投《みなげ》女
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