奴はソックリそのままイギリスの哲学博士で、従って「結婚の生理的結果也」と感付いた奴が、最有力な日本の医学博士の雛《ひよ》ッ子になる訳だ。
そんな奴に「人間に喰付かれた犬は如何なる病気を感染するか」とか「猫の失恋ヒステリーの治療法|如何《いかん》」とかいったような問題と一緒に、数十匹の犬や猫を宛《あ》てがっておくと大抵、半年、乃至《ないし》、三年ぐらいで解決して来る。「人間に喰付かれた犬は泥棒犬になる」とか「三味線に張って猫ジャ猫ジャを弾く」とかいう論文を提出して博士になる。
ナアニ、吾輩が論文を書いてやるんじゃないよ。その研究用の犬や猫を提供するのが吾輩の本職なんだ。イヤ、笑いごとじゃないよ。そこいらの大学や医学校なんか吾輩が居なくなったら、忽《たちま》ち一切の研究が停止するんだから大したもんだろう。
その犬や猫をどこから仕入れて来るかって。アハハ。仕入れて来るといえば立派だが、実をいうと拾って来るんだ。往来の廃物を拾い集めて、博士製造の材料に提供する商売だから非常な国益だろう。むろん鑑札も免状も、税金も何も要らない。商売往来にも何も無い。天下御免の国益事業だ。
もちろんこの商
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