、百科辞典、歴史、法律書、小説の類が山積していた奴を、吾輩は未亡人との恋愛遊戯の片手間に一字一句残らず暗記してしまったものだ。アベコベに未亡人を手玉に取ってやったワケだね。嘘だというなら大英百科全書《エンサイクロペジヤ・ブリタニカ》のドノ巻のドノ頁の第何行目に、何が書いてあるか質問してみろ。即答して見せるから……。ソレ見ろ……。
そこで世界の大勢に通じた吾輩は科学なるものに非常な興味を感じたね。早速亜黎子未亡人に甘たれてその図書館の中に立派な実験室を作ってもらった。その実験室で吾輩は超越智《チョウエツチエ》という毛唐人が発見した脂肪の分解剤を逆に分解して、有効成分だけを取出し、そいつを応用して動植物の脂肪や油をドン底まで分析し、ダイナマイトに数十層倍する猛烈な液体火薬を作り出す事に成功した。
その時は嬉しかったね。まるで世界を征服したような気持だった。あんまり嬉しかったもんだから吾輩はその爆薬の製法を極秘密の中《うち》に日野亜黎の名前で海軍省に投書した後《のち》に、その実際の効果を証明するために、その亜黎子未亡人と合意の上で爆薬情死を企ててやろうと考えたもんだ。むろんその時分には二
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