円上げます。ちょうど今日中の上り高《だか》ぐらいあるでしょ。親方へ上げる妾の香奠《こうでん》よ。ね……いいでしょ……いけないの……。いいわ。どうしてもこの坊ちゃんを殺すと云うんなら、妾にも覚悟があるわ。御覧なさい。この小ちゃな七連発のオモチャに物を云わせますから……妾はこの坊ちゃんに惚れてるんですからね。そのつもりで話をきめて頂戴……サアサア。警察《サツ》が来ると話が元も子も無くなるわよ。サアサア。早いとこ早いとこ。オホホホホホ」
みんなこの別嬪《べっぴん》さんに呑まれてしまったらしい。イツの間にかメイメイに持っていた獲物を取落していた。吾輩もソロッと親方の死骸を下して額の汗を拭いていた。
こうなると話は早い。廿分と経たないうちに、金モール付《つき》赤ビロードの舞台服を着た吾輩は、今の別嬪さんと一緒に、その頃まで絶対に珍らしかった自動車に同乗して、どこか郊外の山道らしい処をグングンと走っていた。つまり吾輩はこの、日野亜黎子《ひのありこ》という金持の未亡人に買取られて、郊外の別荘に匿《かく》まわれて、その未亡人のハンドバッグボーイにまで出世したもんだ。禿頭のオモチャから一躍、別嬪のオ
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