…お嬢さんだろうか、それとも奥さんだろうかと問題のタネになっていたシロモノであったが、近付いて来たのを見ると、何というスタイルの洋装か知らないが、その頃では眼を驚かすハイカラであったろう。真赤な血のような色をした下着に、薄い、真黒い上服《うわふく》をピッタリと着込んで、丸い乳と卵型《たまごなり》のお尻をタマラナイ流線型にパチパチと膨《ふく》らましている。それが白い羽根付きの黒いお釜帽《かまぼう》からカールをハミ出させて、白靴下のハイヒールの上にスラリと反《そ》り返って、縁《ふち》無しの鼻眼鏡をかけたところは、ハンカチの箱から脱出《ぬけだ》して来たような日本美人だ。年は二十ぐらいに見えたが、実は二十五か六ぐらいだったろう。見物席からイキナリ駈上《かけあが》って来たらしく頬を真赤にしてセイセイ息を切らしていたが、吾輩が振翳《ふりかざ》している死骸なんかには眼もくれずに、ハンドバッグの中から分厚い札束を掴み出すと、みんなの鼻の先へビラビラさせて見せまわしながら、ニッコリと笑った。銀鈴のような嬌《なま》めかしい声を出したもんだ。
「……サア……皆さん。この坊ちゃんを妾《わたし》に売って頂戴。千
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