の梅という奴が、いつの間にか立上って来て、何も知らない吾輩の横っ面《つら》をガアンと一つ喰らわしたもんだ。このゲンコの梅という奴は、ずっと前に大人の力持をやって相当人気を博していたもんだが、アトから来た少年力持の吾輩に人気を渫《さら》われてスッカリ腐り込んでいた奴だ。むろん糞力《くそぢから》がある上に、拳固で下駄の歯をタタキ割るという奴だったから痛かったにも何にも、眼の玉が飛び出たかと思った位だった。だから、いつもの吾輩だったら文句無しに掴みかかるところだったが、親方の死骸を見て気が弱っていたせいだったろう、起上る力も無いまま茣蓙《ござ》の上に半身を起して、仁王立《におうだ》ちになっている梅公のスゴイ顔を見上げた。見ると吾輩の周囲には、梅をお先棒にした座員の一同が犇々《ひしひし》と立ちかかっている様子だ。これは前に一度見た事の在るこの一座のマワシといって一種の私刑《リンチ》だね。それにかける準備だとわかったから、吾輩はガバと跳ね起きて片頬を押えたまま身構えた。
「……ナ……何をするのけえ」
「何をするとは何デエ。手前《てめえ》が親方を殺しやがったんだろう」
「親方の頭のテッペンから血が
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