ですよ。今出て来た三太夫《さんだゆう》の慌て方といったらなかったわ」
「ウム。よく新聞記者に嗅付《かぎつ》けられなかったもんだな」
「まったくですわねえ。でもコッチの思う壺ですわ」
「ウム。面白い面白い。その塩梅《あんばい》では秘密探偵か何かがウンと活躍しているだろう」
「ウチ鬚野先生をスパイじゃないかと思ったわ」
「シッシッ」
 女将が又電話口で話を始めたので皆シインとなった。
「あの……伯爵様で御座いますか。お呼立ていたしまして、ハイハイ。かしこまりました。それでは直ぐにこれからお伺い致します。イエイエ。決して御心配なことは御座いません。何もかもお眼にかかりますれば、すっかりおわかりになりますことで……あの誠に恐れ入りますが、わたくしお宅を存じませんから、そちらのお自動車を至急に大学の正門前にお廻し下さいませんでしょうか。あそこでお待ちして手をあげますから、ハイハイ。お自動車は流線スターの流線型セダン。かしこまりました。では御免遊ばしまして……」
「巧いもんだなあ。流石《さすが》は凄腕だ。上海仕込みだけある。流線スターといったら、東京に一つか二つ在る無しの高級車だぜ」
「アラ、乗っ
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