モシモシイ。唖川伯爵様のお宅でいらっしゃいますか。ハイハイ、コチラはねえ、アノこちらはねえ、大学前の自働電話で御座いますがねえ……ハイハイ。私はねえ、唖川様の若様を存じ上げております女で御座いますがねえ……」
貞操オン・パレード
「あのモシモシ……私は或る女で御座いますがねえ。ホホホ。それは申上げかねますがねえ。アノ若様は……そちらの小伯爵様は只今、御在宅でいらっしゃいますか。……ハイハイ。あの三週間ばかり前から御不在……あら、左様《さよう》でいらっしゃいますか……どうも相《あい》すみません。こちらはアノ。その若様の代理で御座いますがねえ。ハイ間違い御座いません。それでお電話を差上るので御座いますが……その若様の御身《おみ》の上について大切な御報告を申上げたい事が御座いますので……ハイハイ。どうぞ恐れ入りますが伯爵様へ直接にお取次をお願い致したいので御座いますが……ハイハイ。かしこまりました……」
女将は平手で電話口を蔽《おお》いながら、吾輩をかえり見てニタリと笑った。
「何だ小伯爵は失踪してるのかい」
「ええ。そうらしいんですよ。唖川《おしがわ》家は大変な騒ぎらしいん
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