ているんだ。ドンナ無理な筋書でも驚かない。ドンナ無鉄砲な場面でも作り出して見せようてんだから、一つ大いに意見を出してもらいたいね」
「……センセー……ホントに妾《わたし》たちの考え通りにして下さる?」
 吾輩の横に腰をかけていた一番若い、美しい、切前髪《きりまえがみ》の娘が瞳《め》を光らして云った。
「するともするとも。キットお前達の註文通りに筋書を運んで見せるよ。実物を使って実際に脚色して行くという斬新奇抜、驚天動地の世界最初の実物創作だ。喜劇でも悲劇でもお望み次第に実演させて見せる……」
「でもねえ先生……」
 女将の横に居る肥《ふと》っちょの一番肉感的な女が、細長い眉を昂《あ》げて、薄い唇を飜した。
「あたし疑問が御座いますわ」
「あたしもよ……どうも初めっからお話が変なのよ」
「あら、あたしもよ」
「ほう、みんな吾輩の話に疑問があるって云うんだな。ふうむ、面白い。念のために断っておくが、俺はチットばかりアルコールがまわりかけている。しかしイクラ酔っ払っても、話を間違えた事は一度も無い男だぞ」
「アラ、先生。そうじゃないんですよ。先生のお話がヨタだなんて考えてるんじゃありませんわ
前へ 次へ
全131ページ中107ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング