最前からの話の筋の中で、羽振医学士の方は、吾輩の拳骨一挺で簡単に型が付いた訳だが、今一人居る断髪令嬢の許嫁《いいなずけ》の小伯爵、唖川歌夫の方はドウ思うね、諸君。その親孝行の断髪令嬢のお婿《むこ》さんに見立てて、差支え無いだろうか。吾輩は赤ゆもじ議員諸君の御意見通りに事を運びたいのだが……」
「ほんとに貴方は神様みたいなお方ですわねえ。何もかも見透して……」
「ところが、今度の事件に限って吾輩は、すこし取扱いかねているのだ。未だその断髪令嬢の涙ながらの話を聞いただけなんでね。唖川小伯爵がドンナ人間だか一つも知らずにいるんだ。そこへ取りあえず羽振医学士にぶつかって、コイツはイケナイと気が付いたから、筋書の中から叩き出してしまった訳なんだが、しかし、これから先がどうしていいかわからないので困っているんだ」
「まったくで御座いますわねえ、わたくし共でも、見当が付きかねますわ」
「ウム。だから実は君等にこうして相談してみる気になったもんだがね、一つ考えてくれよ。いいかい。この吾輩が詰まるところ運命の神様なんだ。そうして君等の指図通りにこの事件の運命を運んでみようと思ってこうして相談を打《ぶ》っ
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