もって選名をしても、読者の方でそう感じない場合を考慮しなければならないという問題があるが、しかしこれはチョット見当が附かないから困る。
 私なぞに云わせると栗島スミ子という名前は中年のインテリ婦人の名前がするし、江川蘭子はスレッ枯らしの有閑令嬢らしい感じがするのであるが、しかし万人が万人、そう感ずるかどうかは疑問である。

 全く閉口するのは西洋人の名前である。外国人の名前の特徴なんか外国語の出来ない私にとっては全然わからないし、況《いわ》んやその名前によって、その髪毛や瞳の色を想像させるような芸当は一生涯出来ないものと諦らめている。
 万止むを得ない場合には世界地図を開いて、その人間の生れ故郷の地名や、附近の地面の発音の特徴をもじって作るよりほかに方法を知らないので、こうして白状するさえ情ない気がする。
 厳密に云うと日本でも、その地方地方で特有の名前がある。
[#天から3字下げ]蛙鳴くや一村姓を同じうす
 という素人俳句が記憶に残っているが、そんな工合で或る地方の出来事を書くに、その地方に有り勝ちの名前ばかりを使って事件を運べば、非常によく実感が出る筈であるが、そこまでは行届かない
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