中に、黒い拡大鏡を片眼に当てがいながら、チロチロとよろめく懐中時計のハラワタをいつまでもいつまでも透かし覗いているのが、やがてコッソリ瞳をあげて、明るい往来を望み見る。
トタンに明るい往来一面にホコリが立つ。そのあとから乾燥し切った風が、黄色と黒のダンダラになって追いかけて行く。そのあとから白い紙キレや、藁屑や、提灯の底や、抜け毛の塊まりが、辷り転がって行く。それはちょうど普仏戦争のように、黄色い太陽の下を思い出し思い出し、追いつ追われつ、往きつ戻りつ、毎日毎日、日もすがら繰り返して止まぬ。そうして田舎の「時」を、どこまでもどこまでも無意味に、グングンと古び、白けさせて行く。
そうして、やがて夜になると、そうした塵の大群は、われもわれもと大空に匐《は》い上って、都の光明を雲の上まで高く高く吸い上げて、夜もすがらの大火事を幻想させる一方に、愚かしい山々や森林の形を地平線上に浮き出させて、力ない、疲れ切った農民の眠りを見守らせているのだ。
塵は無形の偶像だ。
「金銀も宝石も皆塵となる」
「喜びも悲しみも皆塵となる」
と昔から言い伝えられている位だから……。
なるほど宗教も道徳も
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