大勢居るんもんですかねえ」
「居るか居ないか知らないが、外国では炭坑でも、金山《かなやま》でも護謨《ゴム》林でも開けると器械より先に、まず日本の天草女が行くんだ。それからその尻を嗅《か》ぎ嗅ぎ毛唐の野郎がくっ付いて行って仕事を初める。町が出来る。鉄道がかかるという順序だ。善《い》い事でも悪い事でも何でも、皮切りをやるのはドッチミチ日本の女だってえから豪気《ごうぎ》なもんだよ。まったく思いがけない処でヒョイヒョイ天草女にぶつかるんだからね」
「ヘエ。そんな女は、おしまいにドウなるんでしょうか」
「それアキマリ切っている。その中《うち》に世界の丸いことがホントウにわかって来ると、そこで一人前の女になって日本へ帰って来て、チャンと普通《あたりまえ》の結婚をするんだ。又……それ位の女でないと天草では嬶《かかあ》に招《よ》び手が無い事になっているんだから仕方がない」
「嫁入道具に地球儀を持ってくようなもんですね」
「まあソンナもんだ。だから天草には、世界の丸いことがわからないと洋行出来ないナンテ意気地の無い女は一匹も居ないんだよ」
 あっし[#「あっし」に傍点]は余計な恥を掻いたんで赤くなっちゃ
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