ントルイス》の何とか云いましたっけが、目貫《めぬき》の通りに在るホテルの七階の屋上に夜遅くなってから幽霊が出る。そいつがドウヤラ新聞に出た台湾館の行方不明の客呼び男らしいていう噂がホテルのお客さんたちの間に立ち初めました。馬鹿馬鹿しい怪談《おばけばなし》ですがね……治公《はるこう》がまだチャント生きているのに幽的《ゆうてき》が出る筈はないんですが、毛唐って奴は元来ゾッコン怪談《おばけばなし》が好きなんだそうで……つまらねえものを怪談《おばけ》にしちまう癖があるんだそうですが、そんな噂がどこともなく散り拡がって行く中《うち》に運よくギャング連中の耳に這入らないまに、藤村さんの耳に這入ったもんです。
「貴女《あなた》……お聞きになりましたか、あのホテルのお化けの話を……」
「イイエ。まだ聞きませんわ。聞かして頂戴」
「一週間ばかり前からの事です。真夜中の二時頃……電車の絶《と》まる頃になるとあのホテルの屋上庭園のマン中に在る旗竿の処へフロッキコートを着た日本人の幽霊が出るんです。ホラ直ぐそこに若いスマートな男と、赤っ鼻の禿頭《はげあたま》が立っているでしょう。あの通りの姿で幽霊が出て来て、
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