けの床の上へ投げ出されているのに気が付きました。
 片隅の扉《ドア》の前に置いて在る汚いバケツの中を這い寄って覗いてみますと、ジャガ芋と肉のゴッタ煮の上にパンの塊《かた》まりと水と、牛乳の瓶が投込んで在ります。……つまり何ですね。まだあっし[#「あっし」に傍点]を殺す気じゃなかったのでしょう。あわよくば仲間に引っぱり込んで仕事をさせる気でいたのでしょう。
 しかしあっし[#「あっし」に傍点]は助かったのが嬉しくも悲しくも何ともありませんでした。今から考《かんげ》えてみるとあの時はヨッポド頭が変テコになっていたんですね。やっぱり地球|癲癇《てんかん》の続きだったかも知れませんでしたがね。自分がどこに居るやら、どうなっているやらわからないまま、眼が醒めない前《めえ》から続けていたらしい譫言《うわごと》を、そのまんま云いつづけておりました。
「じゃぱん、がばめん、ふおるもさ、ううろんち、わんかぷ、てんせんす。かみんかみん」
 と繰り返し繰り返し大きな声で云ってたようですが、口癖ってものは恐ろしいものですね。
 ところがこの御祈祷の文句のお蔭で、無事にこうやって日本に帰ることが出来たんですから
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