ッタリと胸の上に押え付けている姿が、たまらなくイジラシイものに見えましたが、その黒い髪毛《かみ》の前の方を切り下げている恰好がドウ見ても西洋人とは思えません。支那人か日本人に相違ないんで……。
そう思っている中《うち》に菜ッ葉服の大男が、カント・デックに腮でシャクられると直ぐに一つうなずいて菜ッ葉服の袖口をマクリ上げて、あっし[#「あっし」に傍点]の太股《ふともも》くれえある毛ムクジャラの腕を二本、突出しました。その熊みたいな手で何の雑作もなく女の手を解《と》かせて、シッカリ握っている右手を開かせますと、中から見覚えのある台湾館|備付《そなえつ》けの桃色の支那便箋を幾つにも折ったものが出て来ました。そのレターペーパの折り目を拡げたやつを受取ったカント・デックは、あっしの鼻の先にブラ下げて見せながら、今一度ニコニコと笑いました。赤チャンをあやすような顔で、あっしの顔を覗き込みましたがね。
それは筆と墨で書いた立派な日本文でした。多分、台湾館の事務室に在った藤村さんの硯箱《すずりばこ》を使ったものでしょう。昔の百人一首に書いて在るような立派な文字でしたがね。
「チイちゃんと一所に出かけ
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