た事ばっかりは今でも骨身にコタえて記憶《おぼ》えております。その睨みにぶつかったフイ嬢《ちゃん》が、真青になってフラフラとブッ倒おれそうになったんですからね。あっし[#「あっし」に傍点]もズット後《あと》になって、そのチイ嬢《ちゃん》の睨みの恐ろしい意味がわかってスッカリ震え上がっちゃったもんですがね。
その晩のことです。あっし[#「あっし」に傍点]は台湾館の地下室で一緒に寝ているノスタレ爺に感づかれないようにソーッと起き出して、首尾よく台湾館を抜け出しちゃいました。それから約束通り噴水の横でチイ嬢《ちゃん》に会って、演芸館の裏で夜間出勤のサンドウィチマンを二人買収して、チイ嬢《ちゃん》と二人で薄い布張りの四角い箱の中に這入って、入口の看守にテケツだけ見せて会場を抜け出しました。アトから考《かんげ》えるとあっし[#「あっし」に傍点]ゃこの時にいい二本棒に見立てられていたんですなあ。節劇《ふしげき》の文句じゃ御座んせんが「殺されるとは露《つゆ》知らず」でゲス。屠所《としょ》の羊どころじゃねえ。大喜びで腸詰《ソーセージ》になりに行ったんですからね。
博覧会の会場を出るともう、カイモク西
前へ
次へ
全52ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング