見立てやがったんだな、俺を女で釣って泥棒仕事のカラクリ細工に使おうとしやがったんだナ。して見るとコイツア飛んでもない処へマグレ込んで来ちゃったぞ。しかもここまで深入りしたからにゃトテも生きて日本にゃ帰《けえ》れめえ……と気が付くと腰を抜かすドコロかあべこべに気持がシャンとなっちまいました。
……妙な性分であっし[#「あっし」に傍点]は気が長い時にゃヤタラに長いんですが、何かの拍子にカーッとしちまうと、それから先が盲滅法《めくらめっぽう》に手ッ取り早いんで……篦棒《べらぼう》めえ日本人じゃねえか。金やピストルに眼が眩《くら》んで毛唐の追剥《おいはぎ》や泥棒の手伝いが出来るかってんだ。「ふおるもさ、ううろんち」を知らねえかってんで、イキナリその毛唐に組付いて大腰をかけようとしたもんです。これでも柔道二段の腕前ですからね。
ヘエ。それあ見上げたもんでしたよ。そこんとこだけがね。アトがカラッキシ意気地が無《ね》えんで……。
今から考《かんげ》えてみるとあん時によく殺されなかったもんで……多分、出来ることならあっし[#「あっし」に傍点]を威《おど》かし上げて柔順《おとな》しくして、彼の棚の扉の細工をさせようってえ腹だったのでしょう。……コイツは日本一の細工人に違いない。コイツを取逃《とりに》がしたら二度と再びコンナ細工は出来っこねえ……ぐれえに考《かんげ》えていたのかも知れませんがアブネエもんでゲス。今から考《かんげ》えるとゾッとしますよ。
組み付いたと思った時にゃカント・デックに両腕をシッカリと掴まれておりました。しかもその指の力の強さったらありません。あっし[#「あっし」に傍点]の腕の骨が粉々《こなごな》になって行くような気持ちで、身体《からだ》中が痺《しび》れ上っちゃいました。トテモ敵《かな》わないと思わせられましたね。手錠を引千切《ひきちぎ》って逃げたっていう亜米利加でも指折りのカント・デックですから、柔道二段ぐれえじゃ歯が立ちませんや。
デック野郎はあっし[#「あっし」に傍点]の腕を掴んだまま顔の筋一つ動かさねえでニコニコしながら吐《ぬ》かしました。
「アナタ。憤《おこ》るといけません。あたしカント・デックです。ゆっくりして下さい。面白いものを見せますから……」
と云ううちにあっし[#「あっし」に傍点]を廻転椅子みたいにクルリと向うむきにして軽々と抱え上げて、横のドアから出て行きました。
「いけねえいけねえ。俺《おれ》あ明日《あした》っから又、台湾館の前に突立って怒鳴らなくちゃならねえ約束がして在るんだ。放してくれ放してくれ」
と大暴れに暴れたもんですが何の足しにもなりません。そのまんまその次の部屋だったか、その次の部屋だったか忘れましたが、小さな粗末な部屋へ抱え込まれますと、そこのコンクリートの荒壁に取付けられている一枚|硝子《ガラス》の小窓から向うの部屋を覗かせられました。ちょうど赤ちゃんがオシッコをさせられるようなアンバイ式にね……。
あっし[#「あっし」に傍点]は暴れるのをやめてボンヤリと見惚《みと》れてしまいましたよ。向うの部屋の状態《ようす》がアンマリ非道《ひど》いんで、呆れ返ってしまったんです。
ヘエ。それがドウモここではお話出来|難《にく》いんで……お二方《ふたかた》お揃いの前ではねえ。ヘヘヘヘヘ……。
何の事あねえ。水溜りに湧いたお玉杓子《たまじゃくし》でゲス。それがみんな丸裸体《まるはだか》の人間ばっかりなんですから開《あ》いた口が閉《ふさ》がりませんや。相当に広い部屋でしたがね。大きな椰子《やし》や、橄欖《かんらん》や、ゴムの樹の植木鉢の間に、長椅子だのマットだの、クッションだの毛皮だのが大浪《おおなみ》のように重なり合っている間を、甘ったるい恰好の裸虫《はだかむし》連中が上になり下になりウジャウジャとのたくりまわっているんですからトテモ人間たあ思えませんよ。金魚鉢に鰌《どじょう》をブチ撒《ま》けたぐらいの騒ぎじゃ御座んせん。
不思議なものでね。そんなのを見せ付けられていながらエロ気分なんてコレンバカリも起りませんでしたよ。今|考《かんげ》えてもあの時の気持ばっかりはわかりませんがね。多分、冥途《めいど》の土産……てえな気持で見ていたんでしょう。何がなしに見っともなくて、馬鹿馬鹿しくて、胸が悪くなるようで、横ッ腹の処がゾクゾクして無性に腹が立って来ましたが、そのあっし[#「あっし」に傍点]の耳へカント・デックの野郎が口を寄せて吐《ぬ》かしやがったもんです。
「あそこへ行きたいなら仕事をなさい」
あっし[#「あっし」に傍点]は又、あらん限りの死物狂いにアバレ初めました。部屋の中がムンムンと暑いので、汗みどろになってしまいましたが、何しろ太刀山《たちやま》みたいな強力《ごうりき》に押え
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