いかな」
「さあ、どうでしょうか。フイルムは三田尻まで大丈夫持ちますよ」

「号外号外。号外号外。号外号外。東都日報号外。吾外務当局の重大声明。ソビエット政府に対する重大抗議の内容。外交断絶の第一工作……号外号外」
「号外号外。売国奴古川某の捕縛号外。ソビエット連絡係逮捕の号外。号外号外。夕刊電報号外号外」
 この二枚の号外を応接室の椅子の中で事務員の手から受取った東京|駐箚《ちゅうさつ》××大使は俄然《がぜん》として色を失った。やおらモーニングの巨体を起して眼の前の安楽椅子に旅行服のままかしこまっている弱々しい禿頭《とくとう》の老人の眼の前にその号外を突付けた。
 老人は受取って眼鏡をかけた。ショボショボと椅子の中に縮み込んで読み終ったが、キョトンとして巨大な大使の顔を見上げた。
 その顔を見下した××大使は見る見る鬼のような顔になった。イキナリ老人にピストルを突付けて威丈高になった。ハッキリとしたモスコー語で云った。
「どこかで喋舌《しゃべ》ったナ。メッセージの内容を……」
 老人は椅子から飛上った。ピストルを持つ毛ムクジャラの大使の腕に両手で縋《すが》り付いて喚《わ》めいた。

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