……ウーム。わからんな。ハハハハハ……ウンウンそれから……」
「それから白いモジャモジャしたお鼻があって、ソレカラ……アラ……アラ……あのオジサマの顔が……あんなところでお母さまのお顔とキッスをして……」
「アハハハハハハハ…………冗談じゃないぞチエ子……何だそのオジサマというのは……」
「……あたし、知らないの……デモネ……ずっと前から毎晩うちにいらっしてネ……お母様と一緒にお座敷でおねんねなさるのよ。あんなにニコニコしてキッスをしたり、お口をポカンとあいたり……」
 と云いさしてチエ子は口を噤《つぐ》んだ。ビックリしたように眼を丸くして、父親の顔を見た。
 しゃがんでいた父親は、いつの間にか闇の中に仁王立《におうだ》ちになっていた。両手をふところに突込んだまま、チエ子の顔を穴のあくほど睨《にら》みつけていた。
 チエ子はそれを見上げながら、今にも泣き出しそうに眼をパチパチさした。そうして、云いわけをするかのようにモジモジと、小さな指をさし上げた。
「……こないだは……アソコに……お父さまのお顔があったのよ……」



底本:「夢野久作全集3」ちくま文庫、筑摩書房
   1992(平
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