。仕方なしに太郎さんは起き上って、御飯を食べて袴をはいて新しい靴下と白足袋をはいて、それからもし運動会がなかった時の用心に昨日次の日の時間割に合わして本を詰めて置いた鞄を荷《かつ》いで、学校に行きました。
 来てみると運動場には誰もいず、一パイに水たまりが出来ています。教室に行ってみると、ここもガランとして鼠一匹おりません。
 変だなと思っておうちへ帰ってみると、家中の人は皆、太郎さんの顔を見て一時に笑い出しました。
 太郎さんは憤《おこ》って、
「何故僕を笑うの。僕は寝ぼけていやしない。運動会がお休みの時の用心に鞄をちゃんと持って行ったんだ。そしたら学校に誰もいないんだ。教場にもいないから変でしょうがないんだ」
 と泣き出しそうな顔をしました。
 みんな死ぬ位笑いながら言いました。
「太郎さんはまだ寝ぼけているの。今日は日曜じゃないの。運動会がなければ学校はお休みですよ。お母さんが運動会があると言ったのがわるかったのね」
 太郎さんは恥かしさと口惜しさにとうとう泣き出しました。お父さんはその背中を撫でて慰めて下さいました。
「感心感心。日曜までも勉強をする児はお前より他にない。泣くな
前へ 次へ
全3ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング