面にソッと寝かしてやると、軍医大佐は苦々しい顔をしたまま私を身近く招き寄せた。携帯電燈をカチリと照して、そこいらに寝散らばっている負傷兵の傷口を、私と一緒に一々点検しながら、無学な負傷兵にはわからない露西亜《ロシア》語と、羅典《ラテン》語と、術語をゴッチャにした独逸《ドイツ》語で質問しはじめた。
「この傷はドウ思うね……クラデル君……」
「……ハ……右手掌《うしゅしょう》、貫通銃創であります」
「普通の貫通銃創と違ったところはないかね」
「銃創の周囲に火傷《かしょう》があります」
「……というと……どういう事になるかね」
 私はヤット軍医大佐の質問の意味がわかった。
 しかし私は返事が出来なかった。……自分の銃で、自分の掌《てのひら》を射撃したもの……と返事するのは余りに残酷なような気がしたので……。
 大佐は鬚の間から白い歯を露《あら》わしてニヤリと笑った。直ぐに次の負傷兵に取りかかった。
「そんならこの下士官の傷はドウ思うね」
「……ハ……やはり上膊部の貫通銃創であります。火傷は見当らないようですが……」
「それでも何か違うところはないかね」
「……弾丸の入口と出口との比較が、ほか
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