お伽噺《とぎばなし》でおなじみの
 おもしろおかしい人たちと
 仲よく遊んだよろこびも
 今宵と夜のうつつぞと
 夢にも知らぬあかつきの
 光りに消ゆる雪の塔

 野から山へと冬は去り
 海から野へと春は来る
 冬のゆくえを尋ぬれば
 消えてあと無き雪の塔
 春のふるさと尋ぬれば
 消えてあと無き雪の塔

 あとには可愛い仲のよい
 兄と妹の夢がたり
 楽しく嬉しくなつかしく
 一夜のうちに消え果てた
 綺麗な綺麗な雪の塔」
 こんな歌をおどりながら舞いめぐる舞い姫の姿は、次第次第にうすれうすれて消えて行きました。
 白い着物を着た舞い姫たちが消え消えとうすくなって行くと一所に空の星の光りもうすらいで、お月様もいつのまにか西へ落ちてしまって、あたりが明るくなると思う間もなく、東の山の上に紫の雲が一つ一つ湧き出して、右に左にゆらゆらと靉靆《たなびき》はじめました。
 兄妹《きょうだい》は夢のようになってこの美しい景色に見とれているうちに、だんだんと明るくなって、やがて東の山から真赤の太陽の光りが野にも山にも一面にサーッと流れました。
 それと一所に舞い姫の姿はすっかりどこへかフッ
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