の中に打ち倒れて了《しま》いました。
 その声が聞こえたのかどうだかはわかりませんが、玉雄がたおれると間もなく、向うの白い高い塔の一番下の処の入り口が開いて、そこから大勢の人が出て来ました。見ると、それはどれもこれも身体《からだ》に薄い白い着物たった一枚着た若いお姫様のような人ばかりで、素足で雪の中を舞い踊りながら吹きまわる嵐につれて歌をうたっています。
「ふれふれ雪よ 春は近い
 ふれふれ雪よ 冬はおわる
 ふれふれ真白に ふり積れ雪よ
 吹け吹け風よ 吹き巻け風よ
 一夜のうちに 雪の塔を作れ
 冬と春とが わかれを告げる
 名残のかたみ 雪の塔をつくれ
 冬は行く 春は来る
 ふれふれ 雪よ
 春は来る 冬は行く
 吹け吹け 風よ
 ふれふれ 吹け吹け
 吹き渦 巻いて
 天まで遠く 雪の塔を作れ
 世界の人も 獣《けもの》も鳥も
 野山の草木も 気づかぬうちに
 旭《あさひ》の光りが 照らさぬうちに
 一夜で出来て 一夜で消える
 高い高い 白い白い
 水晶のような 雪の塔を作れ」
 こう歌っているうちに舞姫たちはだんだん玉雄と照子の方へ近付いて来て、二人のまわりをくるくるまわりながら、白い大きな蝶のように美しく踊りまわりました。
 そのうちに大勢の舞姫は踊りながらだんだん二人へ近寄って来て、手に手に二人を舁《かつ》ぎ上げたと思うと、そのまま踊りをやめて雪の塔の中へ連れ込みました。
 雪の塔の中はどんなにか寒いだろうと玉雄は思っていましたが、まるで違って春のように暖かです。舞い姫たちは二人を軽々と舁《かつ》ぎ上げたまま、梯子段《はしごだん》をだんだん上に昇って行きます。
 第一の室は青い光りに満ち満ちておりました。第二の室は赤い光りで照らされています。第三は紫、第四は黄色とだんだん上へ上って行って、とうとう真っ白い光りが真昼のように満ち満ちている一番高い大広間に来て、床の上に降されました。
 ここまで来るうちに二人ともすっかりあたたまって、着物まで乾いてしまいましたので、二人は床の上に下されると、唯驚いてしまってあたりをキョロキョロ見まわしました。
 兄も妹も雪の塔の大きいのに驚きました。四方の壁も天井も床も銀のように輝いていて、大広間の天井や隅々には四季の花が眩《まばゆ》い位美しく咲いて、室の真中に天井から吊りさがった青白いランプの光りで照らされています。
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