本を見たり、絵や字をかいたり、お手玉をしたりして日が暮れると、二人は揃って、
「さようなら」
 と帰って行きました。お母さんは、
「ほんとに温順《おとな》しい、品のいいお嬢さんですこと。うた子と遊んでいると、うちにいるかいないかわからない位ですわね」
 とお父さんと話し合って喜んでおいでになりました。
 そのうちにお正月になりました。
 うた子さんは初夢を見ようと思って寝ますと、いつも来るお嬢さんが二人揃って枕元に来て、さもうれしそうに、
「今日はおわかれに来ました」
 と云いました。
 うた子さんはびっくりしましたが、これはきっと夢だと思いましたから安心して、
「まあ、どこへいらっしゃるの」
 と尋ねました。二人は極《きま》りわるそうに、
「今から裏の草原《くさはら》に行かねばなりません。どうぞ遊びに入らっして下さいね」
 と云ううちに、二人の姿は消えてしまいました。うた子さんはハッと眼をさましましたが、この時やっと気がつきまして、
「それじゃ、水仙の精が遊びに来てくれたのか」
 と、夜の明けるのを待ちかねて草原《くさはら》へ行ってみました。
 草原《くさはら》は黄色く枯れてしまって
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