て、今度は平生よりもズット平気な……寧《むし》ろガッカリしてしまって胸が悪くなるような、ダレ切った気持になって来た。
私は変に可笑《おか》しくなって来た。タッタ今まで妙に狼狽《ろうばい》していた自分の姿が、この上もなく滑稽《こっけい》なものに思えて来た。そうして「アハアハアハ」と大声で笑い出してみたいような……「笑ったっていいじゃないか」と怒鳴ってみたいようなフザケた気持になった。
私は鏡の中の自分を軽蔑してやりたくなった……「何だ貴様は」とツバを吐きかけてやりたい衝動で一パイになって来た。そこでモウ一度ポケットからハンカチを出して顔を拭い拭い、そこいらをソット見まわしてから、鏡の中を振り返ると、鏡の中の私も亦《また》、瀬戸物のように、血の気《け》の無い顔をして、私の方をオズオズと見返した……が……やがて突然に、思い出したように、白い歯を露《あら》わして、ひややかにアザミ笑った。
私は思わず眼を伏せた。……ゴックリと唾液《つば》を呑んだ。
それから一週間ばかり後《のち》の或る朝であった。私はいつもの通り朝寝をして、モウ起きようか……どうしようかと思い思い、昨夜《ゆうべ》新聞社
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