一部分ぐらいにしか考えない種類の男であった……という事実をハッキリと認識してもらえば、それで結構である。
ところでその私が、現在、ここで係官の許可を得て、執筆しているのは、そんな新聞記事の範囲に属する告白ではない。又は警察の報告書や、予審調書に記入さるべき性質の告白でもない。すなわち、その新聞記事や、予審調書にあらわれているような告白を、私がナゼしたかという告白である。……事件の真相のモウ一つうらに潜む、極めて不可思議な恐ろしい真相の告白である。……すべての犯罪事件を客観的に考察し、批判する事に狎《な》れた、頗《すこぶ》る鋭利な、冷静な頭の持主でも意外に思うであろう……[#ここから横組み]光明の中心×暗黒の核心=X[#ここで横組み終わり]……とも形容すべき告白である。
冗《くど》く云うようであるが、私はモウ一度念を押しておきたい。
あの新聞記事を徹底的に精読してくれた、極めて少数の人々……もしくは直感の鋭い、或る種のアタマの持ち主は直ぐに気付いたであろう。私はこの事件に就《つ》いては、どこまでも知らぬ存ぜぬの一点張りで、押通し得る自信を持っていた。如何なる名探偵や名検事が出て来て
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