につれて見る見る皺《しわ》だらけの鬼婆のような、又は髪毛を逆立てた青鬼のような表情に変った。反対に澄夫の方が発狂しているかのように見えた。
 栗野博士も一作爺も、澄夫と一所《いっしょ》に度を失った。
「コレコレ……退《の》かんか……」
「コラッ……コン外道《げどう》……」
 と二人が声を揃えて怒鳴り付けるうちに一作が、女の襟首へ手をかけると、古びた笈摺《おいずり》の背縫《せぬい》と脇縫《わきぬい》が、同時にビリビリと引離れかかった。その手を非常な力で跳ね除《の》けながら唖女は、涙をボロボロと流した。澄夫の顔を指し、又自分の腹部を指し示して、情なさそうな奇声を発しながらオドオドと三人の顔を見廻わした。
「エベエベ……アワアワ。アワアワアワアワ……」
 澄夫は絶体絶命の表情をした。唇を血の出る程噛んで、肩をキリキリと逆立たした。

「イヨオ。これは芽出度《めでた》い」
 という頓狂《とんきょ》な声がして、澄夫の背後の廊下から伝六郎が躍出《おどりだ》して来た。又も大盃を呷《あお》り付けて、素敵に酔払っているらしく、吉角力《きちずもう》の大関を取ったという双肌《もろはだ》を脱いで、素晴らしい筋
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