ッハッ……。
サア来た。……ここが機関室だ。この垂直の鉄梯子《てつばしご》を降りるんだ。油でヌラヌラしているから気を付け給え。落ちたらコッパ微塵《みじん》だよ。ウンなかなか君は身が軽いね。運動をやっているんだね。スキーにダンスか。そいつあモダンだ。女が惚れる筈だ。オット危ない……。
こっちへ来たまえ。……聞えないかい。オイオイ。こっちへ来たまえったら。このベルトに触《さわ》らないように気を付けたまえ。
これが僕の仕事部屋だ。この椅子に掛け給え。アットット……。濡れてたかい。イヤ失敬失敬。暗いからわからなかった。茶瓶《ちゃびん》か何かそこへ置きやがったな。オヤオヤ。お尻がビショビショになっちゃったね。アッハハ。茶粕《ちゃかす》が付いてらあ。仕方がない。この鉄椅子に掛け給え。そのうちに乾くだろう。……見たまえ。ちょうどマン中の汽鑵《ボイラー》が真正面に見えるだろう。忙しくなるとこの部屋に来て仕事を睨《にら》むんだ。時化《しけ》の時なんぞは一週間位寝ない事があるんだぜ。
オーイ。誰か来い。……聞こえないか……君はチョットその呼鈴《ベル》を押してくれたまえ。……何だボン州か。ウン。コッ
前へ
次へ
全46ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング