船長はもとより運転手までが、七面鳥みたいに気を揉み初めたものだから、イヨイヨもって手が着けられなくなった。一方に船の方は呑気《のんき》なもんだ。そんな騒ぎを載せたまんま、エムデンの居そうな方向へブラリブラリと漂流し始めた。二三百|尋《ぴろ》もある海《ところ》で碇《アンカ》なんか利きやしないからね。通りかかりの船なんか一艘だって見付かりっこない。SOSを打ってみても聯合艦隊が相手にしてくれない……というのだから、その騒動たるや推《お》して知るべしだろう。
……ところが又、生憎《あいにく》なことに、その円棒《シャフト》の入れ換えが、キッカリ一週間かかったもんだ。つまりその間じゅう、全然、機械の運転を休止《アップ》して、行きなり放題に流れ廻わっていた訳だ。
……何故……何故ったってマア考えてみたまえ。あの直径二|呎《フェート》何|吋《インチ》、全長二百何十|呎《フェート》という、大一番の鋼鉄《はがね》の円棒《シャフト》だ。重さなんかドレ位あるか、考えたってわかるもんじゃない。実際、傍へ寄ってみたまえ。これが人間の作ったものかと思うと、物が云えなくなる位ステキなもんだぜ。そいつを索条《ワイ
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