て、ボンヤリしていると果せる哉《かな》だ。コンナ風に雑然《ごちゃごちゃ》聞えて来る騒音の中のドレか一つが起している。ズット奥の小さなピストンのバルブがおかしいな……とか何とか直ぐに気が付く。そんな小さな音に眼を醒ます筈はないと思うかも知れないが、不思議なもので、機械のジャズが順調に行っているうちはグッスリ眠っているが、すこし調子が変るとフッと眼が醒める。同じ船に長く乗っていると船の機械全体が、自分の神経みたいになってしまうんだね。船が黒潮に乗ると同時に、運転手がポッカリと眼を醒ますようなもんだ。
まだ驚く話があるんだ。
今君が見たあの大きな汽鑵《ボイラー》ね。あの正面の電球の下に時計みたいなものが在って、指針《はり》が一本ブルブル震えていたろう。あれが汽鑵《ボイラー》の圧力計《プレシュアゲージ》なんだが、あの圧力計《ゲージ》の前に立って、あの指針《はり》が、二百|封度《ポンド》なら二百|封度《ポンド》の目盛りの上に、ピッタリと静止しているのを見た一瞬間に、この指針《はり》はこれから上るか……下るかっていうことがピンと頭に来るんだ。静止している指針《はり》がだよ。そいつがピンと来る位
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