舌《しゃべ》り続けた経験談なんかは、ミンナ受け売りのゴッタ雑炊《ぞうすい》だ。トランクの中味がわかるまで君を釣っとくためのヨタだった……と云ったら、尚の事、焦点《フオカス》がハッキリしやしないか。ハッハッハッ……ナニ……日本のスパイ船……僕が参謀将校……ウフウフ。当らずと雖《いえど》も遠からずと云っておくかね。
……フーン。何だって、僕に秘密の相談がある? 何だ。云って見たまえ。ナニイ。聞いてる者が居ちゃ話せない。ウン。よしよし……。オイ。ボン州。こいつのオモチャを取り上げてくれ。モウ外《ほか》に何も持っていないな。万年筆と名刺だけか。よしよし。それだけ残しとけ。後で書かせる事があるかも知れないから……それから手前《てめえ》等はこの室《へや》を出て、扉《ドア》をピッタリと閉めておけ。用があったらベルを押すから……ナアニ。俺の事は心配するな。この坊ちゃんは話がよくわかっていらっしゃるんだからな……。
サア。誰も居ない。鍵穴まで閉《ふさ》がっているんだ。その秘密の相談というのを聞こうじゃないか。何だ何だ。何だって服を脱ぐんだ。ハハア。裏に縫い込んだな。G《ゲー》・P《ペー》・U《ウー》の指令か。フウン。暗号だな。ウム。とうとう白状したね。日本の参謀本部が喜ぶだろう。青紅嬢が日本の諜報勤務を馬鹿にし過ぎたから君がコンナ眼に合うんだよ。
……何だ。まだ着物を脱ぐのかい。まだ何か縫い込んであるのかい……アッ……。君は婦人ですな……。
イヤッ……これあどうも……最前《さっき》から平気で色眼鏡を外したり、僕と一緒に男便所へ入ったりされるから真逆《まさか》と思っておりましたが……ハハア……貴女《あなた》がサイ・メイ・ロン君の青紅嬢で、同時にRの四号君。ウムムム。チットも知らなかった。イヤもう解りました解りました。ズボンは脱がなくともいいです。わかっております……アッ……。
……ま……待った待った。待って下さい。ここじゃ困ります。危険です危険です。実際危険なんです。ま……ま……まあ着物を着て下さい。発見《みつか》ると都合がわるい……早く服装を直して下さい。そうそう。それからの御相談です。そうそう……イヤ。Rの四号君が貴女《あなた》だと解れば、一番喜ぶのは日本の参謀本部でしょう。G《ゲー》・P《ペー》・U《ウー》の指令系統がわからなくて困っているらしいんですからね。貴女に敬意を表さして下さい。そうして一つ僕と握手して下さい。これでも理解《わかり》は早いつもりです。ヘヘヘ。そうですそうです。これでも金儲けのために働いているコスモポリタンですからね。世界中が独裁政治《ファシスト》と共産政治《ボルセビイキ》の二つに別れる……ドチラも金が儲からないとあれあコスモポリタンになった方が便利ですからね。世界中のインテリはみんな一種のコスモポリタン式エゴイストですからね。そうですそうです……貴女と握手すれば随分大きな金儲《しごと》が出来ます。
済みませんがモウ一度腰をかけて下さい。ナアニ。外に聞えるもんですか。外の雑音の方が高いのですから……電流《でんき》が来ているなんて云ったのは嘘の皮です。寝台の下には誰も居りません。御心配なら僕の椅子を取り換えて上げましょう。御覧なさい。コードも何も付いていないでしょう。ハハハ……。……いいですか……耳を貸して下さい。とりあえずここで必要な事だけ話しておきますから。いいですか……この船の正体は最早《もはや》お察しでしょう。日本の参謀本部の無電一本でどこへでも行く船なんです。第一長崎へなんか行きやしません。嘘だと思われるならば甲板《デッキ》へ上って、羅針盤《コンパス》を覗いて御覧なさい。チャンと大連《たいれん》行きのコースを取っておりますから。実は大連からツイ今さっき無線電信が這入りましたのでね……この珈琲《コーヒー》茶碗の内側に電文が暗号で書いてあります。この通り飲み残りを傾けると同時に出て来るでしょう。……あっちで又、似寄りの仕事があるのです。やっぱり王君のような人間が網を張っておりますからね。……そればかりじゃない。貴女が専門家ならすぐに気が付くでしょう。この船がタッタ今出しかけている速力に……二十一|節《ノット》一パイに出しかけているところですからね。
……ね。貴女と僕の立場が容易でない事がわかったでしょう。国事探偵としての貴女と僕の地位は、大将と兵卒ぐらい違うのですが、ここ暫くの間は僕に任せて下さらないと困りますよ。いいですか。貴女は依然として遊離細胞のR四号君ですよ。そのつもりで何でも僕の云うなりになって下さらないと……そうそう……それじゃいいですね。
とりあえず甲板《デッキ》の部屋へ帰りましょうね。あそこでユックリ御相談しましょう。ナアニ。この船の中では船長以下が僕の命令通りに動きますから、心配は
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