わかったよ」
 宇東三五郎は突然マドロスパイプを差し上げて叫んだ。
「わかった、わかった。赤たん赤たん」
「えっ。赤たん……?……何だい赤たんて……」
「赤チュウタラ赤たん。主義者《アカ》以外に、そんげな奇妙な活躍する人間はおらんがな。現在、そこいらで地下運動をやっとる赤の活動ぶりソックリたん。まだまだ恐ろしいインチキの天才ばっかりが今の赤には生き残っとるばんたん。そんげな女《おなご》をば養う置《と》くかぎり、今にとんでもない目に会うば……アンタ……」
「うん。ヤッとわかった。その赤カンタン。しかし真逆《まさか》にあの娘が、そんな大それた……」
「いかんいかん。それが不可《いか》んてや、そんげ風に思わせるところが、赤一流の手段の恐ろしいところばんたん。赤にきまっとる。赤たん赤たん。それ以外にソンゲな奇怪な行動をする必要がどこに在るかいな。その姫草ちゅう小娘は、君の病院を中心にして方々と連絡を保っとる有力な奴かも知れんてや」
「ウ――ム。それはそう思えん事もないが、しかし僕の眼には、ソンナ気ぶりも見えないぜ」
「見えちゃあタマランてや。君等のようなズブの素人に見えるくらいの奴なら、モウと
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