は、その洋傘を拡げて、人目を忍ぶようにして私に寄り添った。そうして平常《いつも》の快闊さをアトカタもなくした陰気な、しかしハキハキした口調で問いかけた。
「先生。庚戌会へお出でになりまして……?……」
「ウン。行ったよ」
「白鷹先生とお会いになりまして……?……」
「……ウン……会ったよ」
「白鷹先生お喜びになりまして……」
「いいや。とてもブッキラ棒だったよ。変な人だね。あの先生は……」
私は幾分、皮肉な語気でそう言ったつもりであったが、彼女はもうトックに私のこうした言葉を予期していたかのように、私の顔をチラリと見るなり、淋しそうな微笑を横頬に浮かめて見せながら点頭《うなず》いた。
「ええ。キットそうだろうと思いましたわ。けれども先生……白鷹先生はホントウはアンナ方じゃないのですよ」
「フーン。やっぱり快闊な男なのかい」
「ええ。とっても面白いキサクな方……」
「おかしいね。……じゃ……どうして僕に対してアンナ失敬な態度を執ったんだろう」
「先生……あたしその事に就いて先生とお話したいために、きょう昼間からズットここに立って、先生のお帰りを待っておりましたのですよ。でも……お帰りが
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