趣味雑誌の耽読者で、その雑誌にカブレているせいか、頭の作用が普通の女と違っていた。麻雀《マージャン》の聴牌《てんぱい》を当てるぐらいの事はお茶の子サイサイで、職業紹介欄の三行広告のインチキを閑暇《ひま》に明かして探り出す。または電車の中で見た婦人の服装から、その婦人の収入と不釣合な生活程度を批判する……と言ったような一種の悪趣味の持主であった。だから吾が妻ながら時折は薄気味の悪い事や、うるさい事もないではなかったが、しかし、そうした妻の頭の作用《はたらき》に就いて私が内心|些《すく》なからず鬼胎《おそれ》を抱《いだ》いていた事は事実であった。
 だからこの時も姫草看護婦に対する疑いを、普通一般の嫉妬《やきもち》と混同するような気は毛頭起らなかった。また彼女の変痴気趣味が出たな……ぐらいにしか考えなかったが、それでも、そうした彼女の姫草ユリ子に対する疑いが、何かしら容易ならぬ大事件になりそうな予感だけはハッキリと感じたから、念には念を入れるつもりで私は、彼女の考えを一応、検討してみる気になった。
「白鷹先生に、どうしても俺が会えないのが不思議と言えば不思議だが、論より証拠だ。今夜はこれか
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