その架空の人物と彼女との親密さを私に信じさせる事によって、彼女自身の信用を高め、彼女の社会的な存在価値を安定させようと試みている一つのトリック人形でしか白鷹先生はあり得ないのであったが、軽率な私は、そのトリック式白鷹先生の存在を百二十パーセントに妄信させられていた……私と同様な気軽な、茶目式の人物と思い込んでしまったために、こんな軽はずみな事を彼女に頼んだ次第であった。
 ところが彼女のこうした不可思議な創作能力は、それからさらに百尺竿頭百歩を進めて、真に意表に出ずる怪奇劇を編《あ》み出す事になった。……と言うのは御本人の白鷹先生も御存じないK大耳鼻科の白鷹先生から、白昼堂々と電話がかかって来たのであった。
 私が開業してから、ちょうど三月目……本年の九月一日の午後三時半頃、彼女が電話口から診察室に飛んで来た。
「先生。先生。白鷹先生からお電話です」
 大勢の患者を診察していた私は驚いて振り返った。
「ナニ。白鷹先生から電話……何の用だろう」
「まあ。先生ったら……この間、妾に紹介してくれって仰言ったじゃございません。ですから妾、昨日お電話でモウ一度そう申しましたの……お忙しい時間もチ
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