の一番最初から、ぐんぐん思い通りに、運んで行き始めたのですから……。
けれども私が一寸《ちょっと》した思い付きから、あんな悪戯《いたずら》をしました時に、自動車の中の方々が、どんなにかビックリなすった事でしょう。
あの自動車がシボレーのオープンでありました事は、ほんとに天の助けだったかも知れません。その上に私が、偶然に、安全剃刀の刃を用意しておりましたのは、これこそ一つの奇蹟だったかも知れません。ガタガタする車体の中で、メチャメチャに燥《はしゃ》いでお出でになった三人は、私が安全剃刀の刃で、後窓《アイホール》の周囲《まわり》をUの字型に切抜くのをチットモお気付きになりませんでした。
その穴から片手を突込みました時に、校長先生は、一番左の一番可愛らしい舞妓《まいこ》さんの背後から抱き付いてお出でになりましたが、その舞妓さんの花簪《はなかんざし》と、阿弥陀に被《かぶ》っておられた校長先生の山高帽を奪い取って、自動車から飛び降りて逃げだした時に、私の足の力がどんなにか役に立ちましたことか……若い運転手さんが「泥棒、泥棒」と叫びながら一所懸命で追い掛けて来るには来ましたが、日が暮れて間も
前へ
次へ
全225ページ中213ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング