事でも発表出来るのですからね。よう御座いますか、森栖さん」
「ヘエヘエ。決して忘れません。たしかに承知致しました。ああ意外な間違いで心配しました」
「それにしてもあの娘《こ》は、どうしてここに入って来たのでしょう。気色《きしょく》の悪い……」
 これだけ聞きますと、私はソッと切戸から離れました。弓道場の蔭の防火壁の横から外へ出て、裏門際の共同便所で髪毛《かみのけ》と顔を念入りに直して、コッソリと自宅へ帰りました。

 その晩は頭の中がツムジ風のように渦巻いて、マンジリとも出来ませんままに、左右の手首がシビレるほどシッカリと胸を抱き締めて、夜を明かしました。死刑の宣告を受けた人間でも、あんなにまで夜の明けるのを恐れはしなかったでしょう。
 あくる朝になりますと私は、身体中が変にダルくってしようがないのに気付きました。激しいトレイニングの後で嘔《は》きたくなる時のような疲れを感じて、窓の外の太陽の光が妙に黄《きな》臭くて、起き上ろうとすると眼がクラクラして堪りませんので、生まれて初めて終日、床に就いておりましたが、あれは多分、烈しい神経の打撃からだったのでしょう。両親には風邪気味と申しまし
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