。この重大なる失態に就いて、警察当局は何故《なにゆえ》か口を緘《かん》して一言も洩らさず、且、捜索の手配をした模様もないのは返す返すも奇怪千万の事と言うべきであるが、人も知る如く、同女の父、殿宮愛四郎氏は本県の視学官にして、現中央政界の大御所とも言うべき大勲位、公爵、殿宮|忠純《ただすみ》老元帥の嫡孫に当っているが、意外の悲劇に直面して悲歎に暮れつつも、該遺書内容の重大性に鑑《かんが》み、家門の名誉のため、引責辞職の決心せる旨、往訪の記者に語った。
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「何とも申訳ありません。しかし娘が殺人放火なぞ言う大それた罪を犯し得ようとは、どうしても思われません。火星の女こと甘川歌枝と、娘のアイ子が県立高女在校中、無二の親友であったと言うようなお話も、只今初めて承《うけたま》わった位の事です。むろん二人の間に恋の遺恨なぞ言うような忌《い》まわしい事実があったかどうか、思い当る節《ふし》もありませんので唯、驚いているばかりです。その筋の注意もある事ですし、娘の将来の幸福のためにもかような事はなるべく世間に発表したくありませんから、どうぞここまでのお話のお積りで御聴取を願います。
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