思議な事はないと思う。同廃屋は校内に在るが、午後六時以後は宿直の職員と小使の老夫婦以外には校門の出入を厳重に禁止している。これは自分が特に注意している処であるが、何者が侵入して来てあのような事を仕出かしたものであろう。自分や学校に怨《うら》みを抱くような者の心当りもない。むろん学校関係の者とも思われぬので実に心外千万な奇怪事と言うよりほかはない。万事は当局の調査によって判明する事と思うが、とにもかくにもかような怪事件が校内に於て発生した以上、校内の取締に就いて何処かに遺漏《いろう》が在《あ》ったものと考えなければならぬ。その責任は当然自分に在るのだからかように謹慎しているのだ。云々《うんぬん》。

   森栖校長失踪[#「森栖校長失踪」は2段階大きな文字]
       消え失せた遺書と不可[#「消え失せた遺書と不可」は1段階大きな文字]
       思議な女文字の手紙[#「思議な女文字の手紙」は1段階大きな文字]

 去る三月二十六日、県立高女校内に発生したミス黒焦事件以来、謹慎の意を表して三番町の下宿に引籠っていた名校長、森栖礼造氏は、新生徒入学式の前日なる昨一日夕方頃より突然に
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